「……なあ、知ってるか? 月のない真夜中に銀河が頭の真上に来た時に、この転車台がグルリと廻って廃線になった汽車が甦るんだってよ」
今はもうダム湖の底に沈んでしまった村に暮らしていた二人の少年、トキとカンちゃん、それに一人の少女、エリ。 三人はいつも一緒だった。学校の校庭で、放課後の原っぱで、そして夜中にこっそり家を抜け出してやって来た古びた転車台の上で、 同じ時間を過ごし、同じ空を眺め、同じ夢を見ていた……最後の星祭りのあの夜までは。祭りの晩の新月の闇の中、想い出は湖の底に沈み、綺麗に均衡のとれていた三角形の一辺が欠けて、彼らの心は時を止めた。まるでその記憶を永遠に封じ込めるかのように。
だが、それから13年たったあの夜と同じ祭りの晩に、カンちゃんが現れて、トキを村が沈んでいるダム湖へと誘う。 街を抜け出した二人を追うエリ……。 やがて三人は廃線の鉄路をたどって真夜中の湖へと辿りつく。 その時、水底の転車台が軋む音を響かせながらゆっくりと廻り、 いつしか彼らは汽笛と共に甦った汽車に乗っていた。銀河に散りばめられた物語をめぐりながら、忘れてしまった記憶のカケラを拾い集めるようにして、旅を続ける三人。そして銀河の裂け目の闇の向こうに微かな光が見えた時、三人はそれぞれの真実へと導かれてゆく----。
少年少女が大人になるための哀しみと、かつて少年少女だった大人たちが抱くもう手の届かない憧憬を、切なさと、鈍い痛みを伴って描くファンタジー。
「さあ、転車台を廻して旅に出よう。ジョバンニやカムパネルラが乗り、そしてザネリが間に合わなかったあの美しい『銀河鉄道』よりも、いくぶん薄汚れ、錆びついてはいるけれど……きっとまだ、終着駅行きの最終列車には間に合うはずだから」